
新参者
水天宮前の書店BOOKS PISMO(なんだその書店を始めた理由・・・)では刊行前からわざわざスペースをあけてまで宣伝し、人形町の文教堂書店(ジェイブックもよろしく)ではものすごいスペースをとって展示しており、東野圭吾の新刊だけに凄いな、と思っていたが、それだけではなかったのね。人形町を舞台にしたご当地もの、だそうで、そりゃあ力も入るというもの。人形町駅にもポスターが貼られており、そこには加賀恭一郎、人形町を歩く、といったような言葉が添えられていた。
東野圭吾ファンならご存知、だろう加賀恭一郎シリーズの新作である。本作品では日本橋署勤務ということになっている。
話は、ある殺人事件を追う話である。小伝馬町で起きた殺人事件を、警視庁とともに、転任早々の日本橋署の所轄刑事として担当する。これを短編連作という形で描く。事件の真相に円を描くようにしながら迫っていく。巧い。一編一編で完結するエピソードを用意し、それは家族であったり店であったりが対象なのだが、そこに事件を絡め、加賀警部補が狂言回しながらも重要な役割を担い、物語を展開し、収めるところに収めていく。日本橋人形町という土地柄に似合った人情もので、東野圭吾の最高傑作という代物ではないと思うが、しかし最高の作家がそのパフォーマンスをいかんなく発揮した絶品の小説ではある。これは圧倒された。一気に読んだ。
ちなみに出てくるお店は実名の場合、その場所には類似の店はないように思う。喫茶去だけは別かな。そうした配慮をしつつ、雰囲気が伝わる仕上がりというのがプロの技。小伝馬町〜人形町〜水天宮の距離感、加えて(橋向こうの)両国や木場も行き来するような場所なので、ロケハンしている作品はやっぱり説得力が違う。まぁ著者の力量ということでもあるのだろうけれど。すばらしい作品でした。
まず告白しておきますと、この作品を長編にすることなど、最初は全く考えませんでした。頭にあったのは、日本橋の人形町を舞台に小説を書いてみたい、ということだけでした。なぜこの町なのかと訊かれると、とにかく好きだから、としか答えられません。この町を歩いているだけでわくわくしてくるし、元気が出てきます。不思議なエネルギーを感じられるのです。それを何とか小説の形で読者の皆さんに伝えたいと思ったわけです。IN★POCKET何かを伝えるにはレポーターが必要です。そこでその役に加賀恭一郎を抜擢することにしました。練馬という場所で、主にひとつの家庭に潜む謎を解いてきた彼が、町という広いものを相手にしたらどうなるか、作者としても興味があったのです。
このようにして舞台と主役は決まりました。しかし肝心のストーリーは何もありません。とりあえず歩いてみよう、というわけで担当者と二人で人形町を散策することにしました。六月の、とても暑い日でした。物語の設定が六月になっているのは、そのせいです。あまりにも暑いので、我々はしょっちゅう喫茶店に入って休憩しました。
→IN☆POCKET ’09-9 (2009)

